2012年9月2日日曜日

赤外線と写真の話


 最近はデジタルカメラが普及し、携帯電話にも搭載されるようになってきました。人間の眼は380780ナノメートルの光を感じています。レンズの役目をする水晶体を通して網膜の視神経が光を色の情報として脳に送っています。カメラではレンズを通した光をフィルムで受けて画像として記録します。最近のデジタルカメラでは撮像素子と呼ばれる半導体(CCDCMOS)が光を受けて赤、緑、青のフィルターを付けた3つ一組の受光部が電気信号に変換したカラー情報を三原色のデータで記録されるのです。その受光部の数(画素数)が最近のカメラでは1000万画素を超える程精細化されてきました。
 写真は人の眼が感じたままに記録することが必要なのですが、人が感じる波長域とフィルムとか撮像素子が持つ波長に対する感受性は大きく異なっています。昔カメラが高級品の時代にはレンズの前にフィルターを付けてレンズに傷が付くことを防いでいました。フィルターは紫外線領域の光をカットして写真の仕上がりを眼で見た風景に近い印象にする役割もあったのです。フィルムは眼に見えない紫外線領域には感度が高いという性質があるからです。逆に赤外線領域では感度が低く、写真が発明されて間もない頃は赤色付近では感度がなかったのです。坂本龍馬をはじめ幕末の志士たちが皆顔の色が黒いのは色黒であったのではなく、当時のフィルムは赤に対して感度が低かったので顔の色が黒く写ったのです。近年フィルムは改良を重ね、人が感じるのと同じ様に波長領域が広くなったのです。いわゆるパンクロマチックフィルムです。
 一方で人の眼が感じることの出来ない赤外領域まで感度を持たせたフィルムが発明され、赤外線領域の光で写真を撮る赤外線写真が開発されました。赤外線フィルムは赤外線(近赤外線)に感度を持っているのですが可視光にも感光します。そのため可視光領域の光をカットして赤外線だけを透過させるフィルター(IRフィルター)を付けて撮影をします。このフィルターは可視光を通さないため真っ黒に見えますが赤外線は通過させます。
 赤外線写真では晴天の空は黒くなります。雲は乱反射による赤外線により白く写ります。赤外線写真は可視光をカットしているためモノクローム(白黒)の写真です。山岳写真では空、雲、山のコントラストが強くなるためよく用いられていました。そして特徴的なのは木々の葉の色です。葉に含まれる葉緑素は赤外線をよく反射します。このため緑色の葉は可視光がカットされると葉緑素により反射した赤外線で白く写ります。あたかも草原、木々に雪が積もったように写ります。
デジタルカメラでは撮像素子そのものはフィルム以上に赤外領域に感度を持っていますが、カラー写真を見た目に綺麗にするため可視光領域外の波長をカットするファイルターがカメラ内に組み込まれています。初期のデジタルカメラでは赤外カットの効果が弱いものが多くIRフィルターを付けて赤外線写真が撮れるものがあります。最近では一部のカメラで敢えてこうしたフィルターを組み込んでいないカメラがあり、手軽に赤外線写真が楽しむことができます。赤外線写真を撮る時にはIRInfra Red)フィルターというものを使用することが必要です。デジタルカメラが赤外線に感度を持っているかどうかはテレビのリモコンの先端の小さいレンズをリモコンを操作しながら撮影すると分かります。一度試してみるのも楽しいものです。
人の眼を通してのイメージ

赤外線写真のイメージ

ひまわり畑の赤外線写真(空は黒く、葉は白く写ります)

三浦 実