関数電卓を押入れの奥から探し出した際に計算尺が出てきました。(下写真)
これは高校生の時に近くの文具店で買ったもので400円でした。
メーカはHEMMIと印字されています。専用ケースに納めていたとはいえ、滑尺(中央部)やプラスティックのカーソルも滑らかに動きます。固定尺も滑尺も素材は竹であり、上下の固定尺はステンの薄板でつながれています。ゆるすぎず、固すぎず、実に微妙に滑尺は動きます。竹の表面の目盛板も剥がれず、鮮明に文字が読めます。この計算尺の製造現場を見た記憶があります。職人さんがゲージを使い先の鋭い工具で目盛版を刻み、黒インクを刷り込んでいた風景です。
歴史を調べると、1614年にイギリスのジョン・ネイピアが対数を発明し、1632年に ウィリアム・オートレッドが計算尺を開発したと書かれています。日本には19世紀の終わりに留学生が持ち帰り、それを基に逸見治郎が独自の計算尺を開発、1909年に特許を出願しました。1933年に逸見は逸見製作所を設立しました。現在のヘンミ計算尺株式会社は従業員100名で制御機器や分析装置を開発しています。
1965年に全国高等学校校長会で採用が決定されたとのことで、私が計算尺を購入したのは当にこの時期です。円盤型の計算尺も記憶がありますが、押入れからは見付かりませんでした。
計算尺は20世紀における科学技術に偉大な貢献をしたようで、マンハッタン計画やアポロ計画を推進できたのは計算尺のおかげだそうです。エンリコ・フェルミは、計算尺の達人であり、ロケット開発の元祖であるフォン・ブラウンも常時携帯し、日常のちょっとした科学的概算に使用していたということです。
上写真:竹製の固定尺とカーソルガイド溝 |
高温多湿の日本での使用に耐えるため素材に竹を使い、日本の職人が丹精込めて作った計算尺は精度の高さで信用を勝ち取り、世界占有率80%を誇りましたが、その後の関数電卓の発売により、1980年には生産はほとんど中止されたという深い歴史があります。
見付け出した私の計算尺を思い出しながら動かすと掛け算、割り算、平方根、立方根、三角関数、対数変換が何とかできました。
計算尺で読み取れる数字は3桁、多くのアナログ計測器の精度は3桁、人間の記憶には3桁の数字が適し、またほとんどの技術の議論は有効数字3桁で表現出来るので、計算尺は合理的な計算道具と言えます。
偶然に古い道具を見付けたおかげで、科学計算の歴史や対数計算の理屈、さらに45年を経ても精度を保つ、日本の物造りの素晴らしさを納得しました。やはり道具は大事に持っておくものですね。
坂井公一