電気メーカのオーディオ機器部門に配属され、設計の仕事を始めたのは昭和50年でした。当時は計算尺を用いて回路設計をしていました。その2,3年後に米国のヒューレット・パッカード社が世界初の関数電卓HP-35を発売し、大学の生協で売っていると聞き、無理をして購入しました。(上写真)
価格は記憶では7~8万円したと思います。米国での売価は395ドル、為替と輸入費用を考慮すると妥当な価格でしょうが、これは当時の手取り給料であり、ずいぶんと無理をして買った記憶があります。品番の由来はキーが35個あるからだと後で聞きましたが、確かに今数えると入力キーは35個です。何しろ書籍の末尾に付いていた数表で求めていた三角関数、対数などがキー操作一つで求まり、また50ステップほどのプログラムが可能で、条件設定をして自動計算が出来るのは感動ものでした。
実際に使って戸惑ったのは逆ポーランド方式という入力方法です。すでに国産の電卓はありましたが、たとえば2+3=という風に数式通りに入力しますが、逆ポーランド方式では2、ENTER、3、+という順で入力します。不思議な手順ですが、実は言葉で「2に3を足す」という語順と同じですぐに慣れました。
最も便利だと感じたのは工学小数点という表示方式です。これはENGと操作すると103、10-6というように計算結果の指数部分を 3の倍数にするものです。
このHP-35は残念ながら数年で動かなくなりましたが、次に購入したのはHP19Cです。これは9万円ぐらいしたと思いますが今でも電源をつなぐと動きます。(下写真)
HP-19Cは小型のプリンターも付いている優れ物でした。
これらの電卓はLED表示であり、電池も貧弱なためにすぐに電池切れするために、やがて国産のLCD表示の薄型関数電卓を3機種購入し、今も使っていますが2000円ぐらいで買えたと思います。
技術の仕事は常に計算ですが、今はその場での概略計算は関数電卓で、精密で大量の計算はExcelで行っています。
実際の集積回路や電子機器など電気系の開発部門ではEDA(Electronic Design Automation)と呼ばれる、自動化を支援するための高速で高精度のソフトウェアやハードウェアが広く使われていますが、自分で理論式を立て、特異点などを計算することは重要と思われます。
それにしても逆ポーランド方式や工学小数点という表示方式は無くなってしまったのでしょうか?
当時は仮に特許などがあったとしても、40年近く前の話であり、その後関数電卓の市場支配をしたSH社やC社がなぜ採用しなかったのか今でも不思議です。
坂井公一