2014年4月13日日曜日

本の匂い、珈琲の香り

 40数年前のことですが、ちょっと贅沢な気分を味わえたのが京都の河原町通りにあった丸善に行くことでした。本屋さんには紙かインクが分かりませんが独特の匂いが満ちていました丸善の2階

には煌めくほどの洋書が並んでおり、また舶来の文房具、事務用品を羨望の目で見ていました。京都丸善は梶井基次郎の作品「檸檬」に実名で登場します。
 その洋書の並ぶ2階にはコーヒースタンドがあり、いつもコーヒーの香りがフロアーに漂っていました。学生などが近寄れる雰囲気ではなく、いつか自分もここでコーヒーを飲める身分になりたいと思っていました。
 就職して職場も住居も大阪になってからは丸善に出かけることは無くなりましたが、その丸善が2005年10月10日に閉店したことを後で知りました。
閉店が報じられて以降、書棚の上に檸檬を置いて立ち去る人が続出し、店はバスケットにそれらの檸檬を積み上げたようです。
 丸善ではコーヒーを飲めませんでしたが、近くの喫茶「築地」、「フランソワ」、そして東郷青児の作品が展示されている「ソワレ」ではコーヒーを飲みました。
驚くべきことにこれらの老舗喫茶店は今も営業を続けています。
洋書には縁が無かったですが、安価な文庫本はよく読みました。
昔買い集めた本の多数は処分してしまいましたが、現在は電子図書館である「青空文庫」で読むことができます。日本の著作権50年を超えた名著13000作品が無料で、しかもパソコンの大きな画面で見られるので文庫本の細かい字が読めなくなった身には助かります。 2013年は吉川英治、室生犀星、柳田國男らが青空文庫入りしました。遠くないうちに三島由紀夫(1970年没)、川端康成(1972年没)も電子化されます。その電子化(テキストデータ化)はボランティアが入力、校正、ファイル作成を担当しています。
 その方達を青空文庫では「青空耕作員」と呼ぶそうで、名前も微笑ましい感じがします。
 この無料の青空文庫がピンチを迎えています。TPP交渉では著作権を70年に改めるように米国から要求を受け、妥結すると“休耕状態”となり、三島由紀夫と川端康成がネットで読めるのはずいぶん先に伸び、文庫の収録が20年に渡り停滞することになります。
 海外では、グーグルが2003年から世界中の図書館蔵書のスキャンを始めており、ハーバード付属図書館が400年近くかけて収集した書籍のうち約1550万冊、スタンフォード付属図書館の100万冊以上、慶應義塾図書館の12万冊、ボドリアン図書館(オックスフォード大学)など、著作権保護期間を超えた書籍のデジタル化を今も進めています。
 貴重な書籍のスキャンは人が1枚ずつページをめくってやるようで、1冊あたり25~100ドルの経費を掛けたと言われています。現在、著作権の保護期間(海外では70年が主流)が満了した書籍は、全文が公開されており、著作権保護期間が存続している書籍は、書籍の一部がプレビュー表示され、同時に書籍販売サイトへのリンクが表示されています。ちなみに昔の半導体関係の専門書を検索すると、70年未満なので電子化されておらず、代わりに書店や所蔵図書館が掲示されるので、公平なシステムと見受けられます。
 もう一つのリスクは日本を含む200各国が締結するベルヌ条約が有り、米国で判決が出た著作権に関するすべての規制が自動的に日本にも及ぶ問題です。
 冒頭で述べた丸善京都店ですが、2015年春に営業を再開すると報道されています。その時には2階の喫茶コーナで、喫茶コーナが出来ればの話ですが、是非とも珈琲を飲みたいと今から楽しみにしています。                                                                
                              坂井公一