2013年6月29日土曜日

プロ野球・統一球を品質管理の観点から見る (後編)


 6月12日に日本野球機構が突然発表して以降、多くの報道がなされていますが、品質管理の観点から見ると、不可解な事実が次々と出てきます。

不可解-1
・突然の発表で大騒ぎになったことを受けて、日本野球機構(NPB)は6月14日、統一球の反発係数の検査結果を発表しました。 
 NPBの検査は統一球が導入された2011年に4回、2012年は3回行なわれ、毎回、本拠地のうち6球場で試合用に保管しているボール各1ダースを検査測定した結果、最低は0.405、最高でも0.411であり、すべての平均値が目標とされた基準値の下限である0.4134を下回っていた。また変更後の2回の検査での平均値は0.416となっています。(次図参照)




・プロ野球全体を統括し、メーカからボールを調達する日本野球機構が規格を下回る、つまり“規格外れ”のボールを2年間も使い続けたことは通常のものづくりの現場では考えられないことです。

不可解-2
・日本野球機構がメーカ(M社)を信頼し、管理検査をしていたのは不合理とは言えませんが、年間に4回だけというのは如何にも少なすぎます。 また6球場で試合用に保管しているボール各1ダース12個の測定というのはサンプルが少なすぎます。メーカから6球場に納入されたボールは同一ロットの可能性は少なく、統計的な数字(平均値と標準偏差)を得るには各ロットで最低でも50個の測定が必要と考えられます。
・ちなみにNPBのWebsiteによれば、セリーグは1試合あたり4ダース(48個)、パリーグは1試合あたり7ダース(84個)用意するとされていますが、野球中継を見ると、捕手の手前でショートバウンドしただけで新球に交換し、もちろんファールやゴロで処理されると新球が投手に渡されるので、球場は10ダース(120個)以上を準備するようです。

不可解-3
・ボールの反発係数の測定方法ですが、一説では専用の電子式計測器を用いて、マシーンから打ち出したボールを鉄板にぶつけ、衝突前の速度と跳ね返りの速度を計り、その比を反発係数として測定していると言われています。
・もう一つは、4mの高さから大理石上にボールを落とし、跳ね返りの高さから反発係数を計算しているとの説です。高さh1から落として跳ね返り高さがh2なら反発係数eは次式になります。

  e = (h2/h1 ) (るーと h1ぶんのh2)

この計算式に依れば、4.0mの高さからボールを落とすと跳ね返り高さは684mm~765mmの範囲が反発係数0.4134~0.4374に相当します。現在の統一球の製造元であるM社のWebsiteにはこの自然落下、反発距離による反発係数eの測定法が掲載されています。
このWebsiteには2011年の統一球について、「球速144キロ、スイング速度126キロ、飛び出し角度27度の条件下での飛距離が従来の約110.4メートルから1メートル短い約109.4メートルになるデータが出た」と記載されています。しかしホームラン数の激減がこの1mの差に依るとは到底思えません。
 
さらに、専用の計測器でも、また落下・反発高さ計測でもこの種の測定で有効数字4桁の精度を求めるのは無理が有ります。つまり、同じ球を用いて複数回測定を繰り返した時に4桁の精度でデータの再現性を得られるとはとても思えません。たとえばボールの皮の部分と縫い目の部分でも反発係数はかなり変わるはずです。つまり目標下限値0.4134の設定に合理性が見られないということです。

不可解-4
 ・本塁打の激減を受けて、2013年度から目標下限値を0.4155に再設定したとして,どれだけ飛距離が伸びると計算したかの根拠がよく分かりません。
ある流体力学の専門家の記述によれば、反発係数が0.01大きくなれば、理論的には飛距離が2m伸びる計算になるとされています。
NPBの検査による平均値(上図参照)では0.416-0.406=0.01の反発係数の差が打球の飛距離にどれだけ影響すると想定しているかということです。
・残念ながら特にホームランの飛距離は公式には計測されておらず、報道されるのはすべて“推定飛距離”ですが、今年のセリーグを見ているとブランコやバレンティンが特大のホームランを連発しています。また外野フライかと思われた飛球が悠々と外野席に飛び込むのを見ると、とても2mの飛距離アップとは思えません。
・これらの事象を見ると、飛距離は反発係数以外の無視できない要因があると考えられます。

結論として、品質検査の標本数、検査精度に合理性が無く、また基準を下回る試合球を不良品として返品せずに使い続けた判断、さらに飛距離との相関が不十分な反発係数での管理には合理性が無く、統一球の問題は奥が深いと思われます。                                                                                                                                    坂井公一



2013年6月23日日曜日

「歯」について想うこと ~ その3「抜いた歯に感謝」 ~


<前回からの続き>

 さて、結局私は 悩んだ結果、3本まとめて歯を抜きました。
 「先生、今抜いていただいた歯は、持ち帰りたいので、よろしくお願いします」
 「承知しました。時々、持ち帰られる方がおられます。貴方はどうしてですか?」
 「私は これまで歯医者さんに歯を抜いてもらった後 その歯を見て“畜生!これが私を痛みで苦しめてきた奴か!”と恨みの思いを込めて ゴミ扱いで投棄してきました。

 ところが 先日の 先生のお話を聞き 少し考えを改めました。今日抜いてもらった歯は 私が生まれてから今日まで、私と喜怒哀楽を共にしてきたのです、私が子供のころに“身体髪膚これを父母に受く”という教えを受けました。すでに私の父母は亡くなりましたが、この歯は父母から授かって、胎児のときも含めると80年近く私の体の一部として、悔しいときには歯を食いしばり、嬉しいときには大口を開け大笑いしてきました。毎日3度3度の食事の時には、ご馳走のときも 粗食のときも 五味(酸い、苦い、甘い、辛い、鹹い)を共に味わってきました。
 昨夜はこの歯にとっての“最後の晩餐”というわけで、久しぶりの中華料理をいただき別れを惜しみました。」
 「私の話で、そこまで考えていただくとは、思っていませんでした。有難うございます。私も職業柄、歯についての思い入れでは 人後に落ちないつもりですが、貴方の歯に対する優しさには 敬服しました。」

 抜歯の翌日 傷口の消毒に行きました。その時アシスタントの女性から 
「昨日持ち帰られた歯は どうされましたか」と尋ねられました。
「ジュエリーボックスに処置した日付と感謝のメモ書きを付けて入れました」
「あら 素晴らしい 歯は喜んでることでしょうね」

 私は子供の頃 乳歯が抜けた時に 下の歯は屋根の上に 上の歯は床下へ捨てるように言われ、そのように守っていたこと思い出しました。理由を聞いた覚えがないのですが、察するところ 前の歯(抜けた乳歯)に向かって真っ直ぐ生えてくることを願ったオマジナイの様なものなのでしょうか? 皆様はどのようにされたのでしょうか。

 さて、私の歯科通いは これからも続くことになります。ところが、どうやら下の前歯4本(下の奥歯はすべて抜いてしまいました)だけでは下の入れ歯を支えるのが限界で、人前で話をするには問題があるようです(ある種の発音をするときや 何か不快さを舌が感じた時に反射的に舌で入れ歯を突き上げる動きをするために、入れ歯が簡単に外れ 発音が乱れることになるらしい・・・絶望!!!)。
 しかし、問題解決の方策があるようです。即ち、“インプラント”で、1~2本奥歯を造ることです。でも健康保険が利かないらしい。(なぜか健康保険が利く方法では、これに代わるものはないそうです。でも、その話は歯を抜く前には聞かされていませんでした。)
 私の友人にもインプラントした人がいますが、それほど特別でもない治療なのに、保険外とは・・・怪しからん!。いざという時に役に立たない健康保険であることよ。
 残念ながら 相当高額の健康保険外(10割負担)の治療となります。 (おわり) 
                                                                                            田村順造


2013年6月20日木曜日

「歯」について想うこと その2「幼児期に歯が生え変わるのは」

<前回からの続き>

 約1週間後に 歯科医院を訪れ、私は「3本まとめて処置してください」と私なりの結論を伝えました。
先生は「了解しました お任せください」と、前回の口腔内写真とレントゲン写真で、今後の処置の説明を受けました。
 しかし、そこで私は いつもの癖で屁理屈を捏ねたくなり、
「先生 患者としての気持ちを少し言わせてもらっていいですか」
「はいどうぞ ご遠慮なくいってください」
「有難うございます。失礼を承知で 言わせてもらいます。
 歯医者さんは 患者の虫歯がひどくなると 大抵の場合抜いてしまい 後は 入れ歯や差し歯をして終わり、というのが普通ですが・・・
何故 自前の歯を生えるように出来ないのですか? 誰でも 幼児のころに 乳歯が抜けて永久歯が生えてきたのに その仕組みを再現することが何故出来ないのでしょうか? 
他の動物は 一生歯磨きもせず、歯医者も居なく、中には何度でも歯が生え変わり続ける動物(例えばサメなど)もいるのに・・・
ノーベル賞を頂いた山中先生の iPS細胞は歯よりも もっと複雑な臓器を創り出すことが可能になったそうじゃないですか 何とかしてほしいなー・・・」
 
「おっしゃる事は 尤もなことだと思います。歯医者も頑張って研究しておりますが、今の段階では ようやく動物実験で自前の歯を再生出来るようにするところまで来ています。しかし、歯の生える向きがコントロール出来ず、それを乗り越えないと実用にはなりません。したがって、人に適用されるまでには、まだまだ乗り越えるべきテーマがあり、我々の生きているうちには 間に合わないでしょうね。・・・
 なにしろ、人の永久歯の生える仕組みが分かったのも最近で、その仕組みは、女性の卵子と同様に、母体内で胎児の段階に準備され、決定しているらしいのです。まさに「神の領域」と言われる神秘的な世界らしいです。
 でも眼医者さんが、目が悪くなったからと言って、余程の事がない限り患者の目をくりぬいたりはしません。それと同様に、歯医者も もっと患者さんの身になって、簡単に歯を抜かずに治療するとか 自前の歯が生えてくるような努力をしないといけないと思っています。」
                                                               <次回につづく> 田村順造

2013年6月19日水曜日

「歯」について想うこと ~ その1 「80-20運動とは」~


皆様 既にご承知のことでしょうが、毎年6月4日(虫歯のむしに因んで?)から「歯の衛生週間」(厚生省・文部省・日本歯科医師会6/46/10) が設定されています。
先日、私は「京都の銘菓」との触れ込みにつられて、「おかき」を一枚頬張ったところ、味は良かったのですが、丹波の黒豆入りのおかきで、いきなり強烈な歯の痛みがあり、早速歯科医を訪れることとなりました。ところが、前回(2年前)治療していた医院は看板が変わっており、止むを得ず最近開業した近くの医院を訪ねることにしました。
この医院の院長は、50歳くらいの比較的若い先生で、受付も大変愛想の良い女性でした。初診ということで、口腔内をくまなくレントゲン撮影し、その結果下された診断が、左の下の奥歯の一本が痛みの原因だということでした。その上その歯の両側の歯も「やがて痛み始めるでしょう」との宣告でした。
現在 私は既に上下とも入れ歯をしており、特にひどいのは下の歯で、7本しか残っていません。日本歯科医師会が推進している運動に「8020運動」があります。“80歳になっても20本以上自分の歯を保とう”という運動だそうです。ところが、私は、来年は80歳になりますが、すでに自分の歯は17本しか残っていません。それをさらに3本抜くとなると、14本になり、80歳でマイナス6本の落第生になってしまいます。
 しかし、今回痛みの原因の1本だけを処置しても、下の入れ歯は作り直しが必要で、その間約10日間は入れ歯なしの不便を我慢しなければなりません。後の二本も遠うからず、同じ経過を辿る事になりそうだという事なら、一層のこと まとめて3本を一度に抜歯処置し、入れ歯も作り直してしまえば、苦痛・不便のトータル期間は短くて済むことになります。
 医者からは、「どの方法でも可能です。どの処置を採るかは 貴方が決めることです」といわれ、悩みました。私は、これまで何度も歯を抜いたことはありますが、毎回1本ずつでした。3本もまとめて抜いた経験はありませんので、正直のところ大分迷いました。
 医者も、「今すぐお返事いただかなくても結構です。今日は痛み止めを出しておきますから、次回にお返事を聞かせてください」とのことで、その日は帰りました。
                                           次に続く 田村順造

2013年6月14日金曜日

プロ野球・統一球を品質管理の観点から見る


やっぱりそうだったか!

6月12日に日本野球機構が突然発表した「統一球を本年度から反発力の大きい飛ぶ球に変更した」との報道に唖然とした。


調べると、公式球は重量141.7~148.8g、円周22.9~23.5cmと規則で定められており、反発力はコミッショナー事務局によって実測され、反発係数が0.41~0.44の基準を満たすボールが合格となり、公認マークが付けられる。(左写真)


 この公認試合球の統一前は4社(ミズノ、アシックス、久保田、ゼット)が試合球を製造し、主催球団に納品していたが、メーカにより飛びが違うなどの問題や、WBCなどの国際試合への慣れのために、2011年のシーズンからミズノ株式会社1社に統一したとのことです。
この統一球の採用後、ホームランが激減し、「一発逆転」の場面が減り、プロ野球は面白くなくなったと感じた人は少なくなかったと思います。
これらの興行面での配慮もあって、今年の公認球の反発係数が上方修正されたものと思われます。
最近8年間の各チームの一試合平均のホームラン数の変化を分析したのが次図です。(2013年度は6月13日分まで)

 
 明らかに2011年、2012年度のホームラン数は以前より激減し、飛ぶ球に変更した2013年度は12球団平均で昨年の1.5倍に増えています。
このグラフをよく見ると、2006年から2010年に向けて球団ごとのホームラン数のばらつきが拡大したのに対して、統一球の採用以降、球団でのバラツキは抑えられています。
 12球団の一試合平均ホームラン数とその標準偏差を示したのが次図で、確かにバラツキは低減しています。

 通常の生産現場での品質なら、2011年から工程品質を改善し、ばらつきは減ったが現物は下方管理限界(LCL)を下回るものが頻発のため、2013年からXバー(平均値)を上げるように設計を改善した、ということになりそうです。


 
 以前から球場の広さやドーム球場と風の影響を受ける球場の差に加えて、主催球団ごとに決まっていた試合球の種類など、ホームランの出方には不公平感が有ったようです。
 統一球の一つの狙いであった今年のWBCは優勝できなかったが、2013年から“黙って切り替えた”反発係数の高い「統一球」は野球を面白くし、以前の4社供給によるばらつきによる不公平の対策にもなり、意外に有効だと思われます。                                                                                                                                             坂井