6月12日に日本野球機構が突然発表して以降、多くの報道がなされていますが、品質管理の観点から見ると、不可解な事実が次々と出てきます。
不可解-1
・突然の発表で大騒ぎになったことを受けて、日本野球機構(NPB)は6月14日、統一球の反発係数の検査結果を発表しました。
NPBの検査は統一球が導入された2011年に4回、2012年は3回行なわれ、毎回、本拠地のうち6球場で試合用に保管しているボール各1ダースを検査測定した結果、最低は0.405、最高でも0.411であり、すべての平均値が目標とされた基準値の下限である0.4134を下回っていた。また変更後の2回の検査での平均値は0.416となっています。(次図参照)
・プロ野球全体を統括し、メーカからボールを調達する日本野球機構が規格を下回る、つまり“規格外れ”のボールを2年間も使い続けたことは通常のものづくりの現場では考えられないことです。
不可解-2
・日本野球機構がメーカ(M社)を信頼し、管理検査をしていたのは不合理とは言えませんが、年間に4回だけというのは如何にも少なすぎます。 また6球場で試合用に保管しているボール各1ダース12個の測定というのはサンプルが少なすぎます。メーカから6球場に納入されたボールは同一ロットの可能性は少なく、統計的な数字(平均値と標準偏差)を得るには各ロットで最低でも50個の測定が必要と考えられます。
・ちなみにNPBのWebsiteによれば、セリーグは1試合あたり4ダース(48個)、パリーグは1試合あたり7ダース(84個)用意するとされていますが、野球中継を見ると、捕手の手前でショートバウンドしただけで新球に交換し、もちろんファールやゴロで処理されると新球が投手に渡されるので、球場は10ダース(120個)以上を準備するようです。
不可解-3
・ボールの反発係数の測定方法ですが、一説では専用の電子式計測器を用いて、マシーンから打ち出したボールを鉄板にぶつけ、衝突前の速度と跳ね返りの速度を計り、その比を反発係数として測定していると言われています。
・もう一つは、4mの高さから大理石上にボールを落とし、跳ね返りの高さから反発係数を計算しているとの説です。高さh1から落として跳ね返り高さがh2なら反発係数eは次式になります。
e =√ (h2/h1 ) (るーと h1ぶんのh2)
この計算式に依れば、4.0mの高さからボールを落とすと跳ね返り高さは684mm~765mmの範囲が反発係数0.4134~0.4374に相当します。現在の統一球の製造元であるM社のWebsiteにはこの自然落下、反発距離による反発係数eの測定法が掲載されています。
このWebsiteには2011年の統一球について、「球速144キロ、スイング速度126キロ、飛び出し角度27度の条件下での飛距離が従来の約110.4メートルから1メートル短い約109.4メートルになるデータが出た」と記載されています。しかしホームラン数の激減がこの1mの差に依るとは到底思えません。
不可解-4
・本塁打の激減を受けて、2013年度から目標下限値を0.4155に再設定したとして,どれだけ飛距離が伸びると計算したかの根拠がよく分かりません。
ある流体力学の専門家の記述によれば、反発係数が0.01大きくなれば、理論的には飛距離が2m伸びる計算になるとされています。
NPBの検査による平均値(上図参照)では0.416-0.406=0.01の反発係数の差が打球の飛距離にどれだけ影響すると想定しているかということです。
・残念ながら特にホームランの飛距離は公式には計測されておらず、報道されるのはすべて“推定飛距離”ですが、今年のセリーグを見ているとブランコやバレンティンが特大のホームランを連発しています。また外野フライかと思われた飛球が悠々と外野席に飛び込むのを見ると、とても2mの飛距離アップとは思えません。
・これらの事象を見ると、飛距離は反発係数以外の無視できない要因があると考えられます。
結論として、品質検査の標本数、検査精度に合理性が無く、また基準を下回る試合球を不良品として返品せずに使い続けた判断、さらに飛距離との相関が不十分な反発係数での管理には合理性が無く、統一球の問題は奥が深いと思われます。 坂井公一